桐たんすの伝統美を守る「砥の粉仕上げ」の魅力
古来より、大切な衣類を守る家具として愛されてきた桐たんす。その優雅な佇まいと、調湿性に優れた機能性の秘密は、素材である桐材の良さに加え、受け継がれてきた「砥の粉仕上げ」という伝統的な技法にあります。
砥の粉(とのこ)とは何?
砥の粉とは天然の微細な石の粉末(簡単に言えば土)で塗料の一種です。主に京都山科で採掘されています。
桐たんすの色付けはこの砥の粉と夜叉(やしゃ)の実を煮出した液(染料になる)などでに混ぜて溶いたものを刷毛で塗ります。
砥の粉の色は、白、黄、赤などがあり、特に黄色が一般的ですが、地域や好みに応じて選ばれます。

砥の粉
砥の粉仕上げとは?
砥の粉仕上げとは、桐たんすの呼吸を妨げないように表面に塗膜を作らず、桐材が持つ本来の美しさを引き出すように施される伝統的な仕上げ方法です。
- うずくり(木目出し):まず、仕上げ鉋をかけた桐材の表面を、「うずくり」と呼ばれる刈萱の根を束ねた道具で擦り、柔らかな部分を削り取り(柔らかな夏目を削り、硬い冬目を残す)、木目を際立たせます。
- 砥の粉と夜叉の煮汁:次に、良質な京都山科産の砥の粉を、夜叉(やしゃ)の実を煮出した液に溶かして塗ります。
- 色付け(塗り込み):一度塗ってから擦り落とし、再度塗り重ねることで、砥の粉が木の導管に入り込み、桐材の美しい柾目のくっきりとした木目が引き立ちます。
- 最終仕上げ:乾いたら艶出しと保護のために蝋(ろう)を引き、光沢を出します。
この技法により、桐たんすは艶やかで品のある仕上がりとなり、その美しさは世代を超えて受け継がれています。

うずくり

夜叉(やしゃ)の実
砥の粉仕上げのメリット
- 独特な風合いと上品な光沢:桐たんすに砥の粉を夜叉(やしゃ)の実を煮出した液に溶かして塗ります。仕上げに蝋びきを施すと、雅で上品な印象に仕上がります。
- 呼吸し続ける機能:塗膜がないため、桐材が湿気を吸ったり吐いたりする「調湿機能」を最大限に発揮し、湿気に対する反応が良くなります。
- 防炎効果:桐は燃えにくい効果がありますが、桐たんす表面の木の細胞を砥の粉によって埋まることで、防炎効果が向上します。
- 木材の保護:砥の粉が木材の導管を塞ぎ、木材の表面を平らにしてくれます。
- 木目の美しさを引き出す:砥の粉を塗ることで、桐たんすの柾目の美しさが引き立ちます。
砥の粉仕上げのデメリット
汚れと傷、カビ
- 汚れが付きやすい:桐たんすに塗膜がないため、手垢や皮脂などの汚れ・シミが付きやすいです。水にも弱いので取り扱いに注意です。
- 傷つきやすい:素材の桐が柔らかいことに加え、砥の粉仕上げの表面は傷がつきやすい性質があります。
- カビの繁殖:湿気の影響を受けやすく、桐たんすの設置環境によってはカビが繁殖する場合があります。
- 汚れが付いた場合:基本的に部分修理が難しく、汚れやカビの除去には全体的な洗い削り再生(リフォーム)が必要。
変色と経年変化
- 日焼けしやすい:明るいお部屋や直射日光が当たる場所では、色褪せや日焼けしやすい。
- 変色しやすい:桐に含まれるタンニンが酸化することで、使っているうちに黒っぽい茶色へと経年変化する場合があります。
桐たんすのお手入れ
砥の粉仕上げの桐たんすはデリケートですが、適切なお手入れで長持ちします。
- お手入れの基本:柔らかい乾いた布や毛ばたきで、木目に沿って優しく乾拭きするのが基本です。力を入れて擦ると、表面の砥の粉が剥がれる原因になるため注意が必要です。
- 汚れ対策:汚れが付きやすいという特性から、昔から油単(ゆたん)という専用のカバーをかけて保護することもあります。
- 湿気対策:設置場所の風通しに注意し、過度な湿気を避けることが、カビの発生を防ぐ上で重要です。
<桐たんすのお手入れ方法はこちら>
桐たんすの洗い修理再生(リフォーム)
砥の粉仕上げの桐たんすは何回でも洗って綺麗にすることができます。
桐たんすの表面の砥の粉や汚れを洗い落とし、削り直しを行い、砥の粉仕上げを施し直すことで、新品同様に再生させる伝統的な修理再生方法があります。
このリフォームの工程を経ることで、桐たんすは生まれ変わり、次の世代へと受け継ぐことが可能になります。
<桐たんす洗い修理再生(リフォーム)について>
砥の粉仕上げの桐たんすは、留意することで、より愛着が増す日本の伝統家具です。
砥の粉仕上げの美しさを楽しみながら、長く大切に使い続けていきたいものですね。